学校教育だけで英語がふつうに話せる国

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WBC 日本優勝の歓喜からはや1週間が過ぎ去りました。私は、未だに WBC ロスを軽―く引きずっています。今回の大会で日本代表が戦った試合は、本当にどれもドラマチックな展開で見応えのあるものばかりでした。できれば、全試合をもう一度巻き戻して見たいです。それにしても、大谷翔平さんは、あんなにも熱い人だったのですね!

さて、先日、たまたまフィンランドの英語教育について書かれた本を読む機会がありました。何とフィンランドでは、学校教育を受けただけで誰もが英語をふつうに話すということです。大都市だけではなく、地方の小さな町でも、スーパーマーケットや本屋の店員さんをはじめ、ガソリンスタンドの従業員、道で出会う子供連れの女性など、いわゆるふつうの人が癖のない綺麗な英語を話すようです。そして、彼らにどこで英語を学んだのかと聞くと「学校で」という答えが返ってくるそうです。

日本の現状を考えると、これはちょっと驚きです。日本の英語教育とフィンランドの英語教育とでは、一体何が違うのだろうかと大いに興味をそそられました。結論をひと口に言ってしまうと、フィンランドの英語教育には『良い先生、良い教科書、良い教育環境』が揃っているからなのだそうです。考えれば当たり前のようなことですが、学習とは結局そういうことなんだなという感想を持ちました。詳しく紐解いていきます。

『良い先生』とは
フィンランドで教員は人気の職業であり、教員資格を取るための競争率はとても高いようです。そもそも教員養成課程を備えている大学の数は少なく、教育学部に入学すること自体が狭き門となっています。しかも、フィンランドで教職を得るためには、学士課程に加え修士課程を修了しなければなりません。つまり、教職は、フィンランドのエリート職であり、ステータス職のひとつとなっています。さらに、フィンランドでは、教育実習も重視されています。日本のように1回だけの実習ではなく、複数の学校で通常2回、半年以上の時間をかけて教育実習を行い、現場経験をしっかり積むことが求められます。まず、こうしたことが教員の質の高さを裏付けているのです。

フィンランドでは、現在、小学校1年生から外国語学習が導入されていて、多くの児童が英語を選択します。日本では、小学校の英語の授業は基本的に担任が担当するようですが、フィンランドでは、必ず英語を教える資格を持つ専科教員が担当します。また、生活指導や課外活動の指導には専門の教員が当たるため、教科を担当する教員は、ストレスの少ない環境で自分の授業だけに専念できる環境があります。就業時間も短く、毎日ほぼ午後4時には学校を出ることが可能ということです。このあたりは、日本と事情が大きく違うところです。私が以前に学習相談をお受けした中学の英語の先生は、担任の生徒たちの生活指導やクラブ活動の指導などに多くの時間を取られ、担当する授業の準備や自分自身の学習に充てる時間が足りていないというお悩みを抱えていました。一方、フィンランドの優秀な教員たちは、仕事に対する満足度がとても高く、やりがいを感じながらより質の高い授業を提供するための心の余裕があり、このことが生徒たちの学習成果にも違いをもたらすのだと思いました。

『良い教科書』とは
フィンランドの英語の教科書は、本編と別冊のワークブックがセットになっていて、とにかく分厚いそうです。本編の内容もプラクティスの内容もボリューム満点で、十分なインプットの後にワークブックでたっぷりとプラクティスを行う王道の学習システムです。実は、英語学習にとって「ボリュームをこなす」ことには大きな意味があります。もちろん内容にもよりますが、小学校の段階から量をこなすことを前提としている作り自体が『良い教科書』と言えるのかもしれません。

そして、何よりも目を引くのは、その豊富で多岐にわたるプラクティスの内容だということです。パターンプラクティスと呼ばれる文型練習から、語彙に関するプラクティス、英文をリズムに合わせて口に出すチャンツ、ペアワークでインタラクティブに取り組む実践的なプラクティスなどがあり、中でも文法に関するプラクティスの量は、日本の2倍以上ということです。授業で消化しきれなかった分のプラクティスは宿題として出されるそうですが、おもしろいと思ったのは、これらワークブックのプラクティスには、学習者が確実に解けるよう工夫がなされていることです。例えば、同じ内容について違った角度から繰り返し質問したり、前後のページのどこかに答えやヒントがさり気なく書かれていたりするそうです。つまり、学習者一人ひとりが無理なく、また楽しく取り組めるようによく考えられた作りになっているのです。

フィンランドの教科書について、私が個人的に優れていると思った点がいくつかあります。1つめは、日本では見られない語彙に関するプラクティスがあること。例えば、イラストと単語を結び付けるもの、クロスワードやしりとりを用いたもの、間違った綴りを直すプラクティス、また、それぞれの語群から仲間外れの単語を選ぶものなど、いずれもゲーム感覚で楽しく取り組める内容です。日本では、単語を覚えることに苦手意識を持っている人が多いですが、フィンランドでは、英語学習の初期段階から上記のようなプラクティスを介して語彙を効果的に学んでいるため、語彙学習=暗記というイメージはほとんどないそうです。

2つめは、小学校から高校までプラクティスにペアワークが頻繁に取り入れられていること。フィンランドの英語学習では、身近なことを英語で表現する練習機会がたくさんあるため、小学生でもそこそこの英語が話せるということです。言うまでもなく、ペアワーク(もしくは、グループワーク)は、英語の会話力を高める上で実践的かつ有効な手法です。学年が上がるにつれ、より実際の会話の場面を想定し、ひとりが発言した後に、その内容に対してコメントするという種類のプラクティスが増えていくようです。例えば、ペアの片方の発言に対してもう片方がコメントや意見を述べ、さらにそれに対してコメントを言うというように練習を繰り返すそうです。はじめのうちは、コメントも複数の選択肢の中から選べるようになっていて、極めて実践的でありながらも誰でも無理なく学習を進められる内容になっているということです。

そして、私がフィンランドの教科書の最も良い点だと感じた3つ目のポイントは、いずれのプラクティスにも決まった正解はないということ。文型練習にしても、疑問文と回答文をマッチングさせる練習にしても、決まった正解が用意されているわけではなく、さまざまな英作文の作成が可能になっていることです。プレゼンテーションのプラクティスに関しても複数のトピックが与えられ、自分が取り組みやすいものを自由に選ぶことができる点は素晴らしいと感じました。

日本の教科書や教材の場合、このような練習問題では答えが決まっているケースがほとんどです。悲しいことに、日本の英語教育では、常に「正解はひとつ」と教えられてきた感があります。多くの日本人の頭にはこの感覚が痛いほどこびりついているため、英語を話そうとする度に「正しい文法、正しい発音、正しい表現」を意識しすぎてしまい、英語を自由に、そして気楽に口に出すことができないのです。本来、コミュニケーションのための英語の正解は、決してひとつではありません。また、プレゼンテーションなどの課題のテーマも、日本の場合は通常1つであるため、自分が苦手なテーマであれば、それだけで英語嫌いになったり、心が折れてしまうケースもあると思います。

『良い教育環境』とは
フィンランドでは、小学校から大学院に至るまで学費は無料。さまざまな社会的背景にかかわらず、すべての児童・生徒が同じ環境で平等に教育を受けることができます。これは、まさに教育の機会均等です。また、特筆すべきは、クラスのサイズが小さいこと。2019年には日本の小学校の1クラス平均が27人のところ、フィンランドの小学校では平均20人ということで、英語の授業ではこれがさらに分割されるということです。このため、グループワークを行う際にも、発言機会が全員に行き渡ります。教師の側も、生徒の一人ひとりに目が行き届き、きめ細かく手厚い指導を提供することが可能になります。語学を学ぶ環境としては、まさに理想的な環境が整っているということです。

フィンランドの教育方針で重視されていることは、児童や生徒が自ら問題解決に取り組む姿勢です。そのため、教師は、クラスをリードする役割というよりは、児童・生徒のコミュニケーションや活動の調整役、またはファシリテーターという役割で授業を行います。また、学習が困難な児童や生徒に対しては、特別支援専門の教員や補助教員が投入されて補習などが提供される仕組みがあり、万全のサポート体制が整っています。

以上、学校教育だけで誰もが英語を話すフィンランドの英語教育について、かいつまんでお話しさせていただきました。高いプロ意識を持つ教師陣が質の高い教材をベースに児童・生徒を手厚く指導するフィンランドの英語教育のあり方に、私は絶対的な信頼感を覚えました。皆さんはどのような感想をお持ちになったでしょうか?

英語教育に限らず、日本では学校教育に対する信頼が薄く、多くの子供たちが当たり前のように塾通いをしています。実際、子供たちの学力を支えているものは塾での勉強かもしれません。そのことを考えると、やはり日本の教育制度にはどこか効率の悪さを感じずにはいられません。

今回は、以下の書籍に基づいてフィンランドの英語教育について紹介させていただきました。

『フィンランド人はなぜ「学校教育」だけで英語が話せるのか 米崎

See you!